障害者権利委員会 総括所見(2022)条約第24条関連

Last Updated: 2024/02/21

総括所見原文(英語)

https://docstore.ohchr.org/SelfServices/FilesHandler.ashx?enc=6QkG1d%2FPPRiCAqhKb7yhsox6sZe%2Fik6d3iDJzISRPhvIaActFR9I%2FAIZ%2Be8dEYc3x9pGI%2BAqnUjiYnhf%2BzLRJLqW2mBzZdcaW0%2B10tvwrA97qOnmCuV89Qwl7dhkmc1B

Education (art. 24)

51.    The Committee is concerned about the: 
(a)    Perpetuation of segregated special education of children with disabilities, through medical-based assessments, making education in regular environments inaccessible for children with disabilities, especially for children with intellectual or psychosocial disabilities and those who require more intensive support, as well as the existence of special needs education classes in regular schools; 

52.    Recalling its general comment No. 4 (2016) on the right to inclusive education and the Sustainable Development Goal 4, target 4.5 and indicator 4 (a), the Committee urges that the State party: 
(a)    Recognize the right of children with disabilities to inclusive education within its national policy on education, legislation and administrative arrangement with the aim to cease segregated special education, and adopt a national action plan on quality inclusive education, with specific targets, time frames and sufficient budget, to ensure that all students with disabilities are provided with reasonable accommodation and the individualized support they need at all levels of education;

 

障害者の権利に関する条約 第1回日本政府報告 (日本語仮訳)

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100448721.pdf

教育(第24条)
51.委員会は、以下を懸念する。
(a) 医療に基づく評価を通じて、障害のある児童への分離された特別教育が永続していること。障害のある児童、特に知的障害、精神障害、又はより多くの支援を必要とする児童を、通常環境での教育を利用しにくくしていること。また、通常の学校に特別支援学級があること。 

52.障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)に対する権利に関する一般的意見第4号(2016年)及び持続可能な開発目標のターゲット4.5及び4(a)を想起して、委員会は以下を締約国に要請する。
(a) 国の教育政策、法律及び行政上の取り決めの中で、分離特別教育を終わらせることを目的として、障害のある児童が障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)を受ける権利があることを認識すること。また、特定の目標、期間及び十分な予算を伴い、全ての障害のある生徒にあらゆる教育段階において必要とされる合理的配慮及び個別の支援が提供されることを確保するために、質の高い障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)に関する国家の行動計画を採択すること。

 

永岡桂子文部科学大臣記者会見録(令和4年9月13日)

https://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/mext_00300.html

記者)
 先週、国連の障害者権利委員会が日本に関する報告書を発表しまして、日本の特別支援教育が障害児を分ける分離教育だというふうに捉えた上で、この教育体制を見直すように強く要請をしました。十分な予算の確保も含めてインクルーシブ教育について捉えなおしていくようにということが盛り込まれていましたが、この報告書を受けて、永岡大臣の受け止めや今後の文科省としての対応を教えてください。また、報告書の中に、2022年4月に文科省が出した特別支援教育に関する通知を撤回するようにという要請も盛り込まれていました。この通知を出された趣旨を改めて教えていただきたいというのと、この報告書に盛り込まれている撤回という要請を受けてどのように対応されていくかというのを教えていただければと思います。

大臣)
 8月22日から23日に、スイスのジュネーブにおきまして、障害者権利条約の対日審査が行われました。文部科学省も、政府代表団の一員として審査に対応をいたしました。この審査を受けまして、9月9日になります、障害者権利委員会の総括所見が公表されまして、障害のある子供の教育につきましては、個々の教育上の要請を充たす合理的配慮の保障、そしてもう一つ、インクルーシブ教育に関する研修の確実な実施などが勧告されました。文部科学省では、これまでもですね、障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に過ごせるように、通級によります指導の担当教員の基礎定数化ですとか、また、通常級に在籍いたします障害のある子供のサポートなどを行います「特別支援教育支援員」に対します財政支援や、また、法令上の位置付けなどに取り組んでまいりました。引き続きまして、勧告の趣旨を踏まえまして、インクルーシブ教育システムの推進に向けた取組を進めていきたいと考えているところでございます。あとは、やはり、障害者権利条約に規定されておりますインクルーシブ教育システムというのは、障害者の精神的、また、身体的な能力を可能な限り発達させるといった目的の下に障害者を包容する教育制度であると、そういう認識をしております。これまでの文部科学省では、このインクルーシブ教育システムの実現に向けまして、障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に過ごす条件整備と、それから、一人一人の教育的ニーズに応じた学びの場の整備、これらを両輪として取り組んでまいりました。特別支援学級への理解の深まりなどによりまして、特別支援学校ですとか特別支援学級に在籍するお子様が増えている中で、現在は多様な学びの場において行われます特別支援教育を中止することは考えてはおりませんが、引き続きまして、勧告の趣旨も踏まえて、通級によります指導の担当教員の、先ほどもお話し申し上げましたけれども、基礎定数化の着実な実施などを通しまして、インクルーシブ教育システムの推進に努めてまいる所存でございます。そうですね、通知の撤回がありました、お答えいたします。昨年度、文部科学省が、特別支援学級の在籍児童生徒の割合が高い自治体を対象に行いました実態調査におきまして、特別支援学級に在籍いたします児童生徒が、大半の時間を通常の学級、普通学級でございますが、通常の学級で学び特別支援学級において障害の状態等に応じた指導を十分に受けていない、また、個々の児童生徒の状況を踏まえずに、特別支援学級では自立活動に加えまして算数や国語の指導のみを行うといった不適切な事例が散見をされたところでございます。こうした実態も踏まえまして、ご指摘の通知は、特別支援学級で半分以上過ごす必要のない子供については、やはり、通常の学級に在籍を変更することを促すとともに、特別支援学級の在籍者の範囲を、そこでの授業が半分以上必要な子供に限ることをですね、目的としたものでございまして、むしろインクルーシブを推薦(注)するものでございます。勧告で撤回を求められたのは大変遺憾であると思っております。引き続きまして、通知の趣旨を正しく理解をしていただけるように、周知徹底に努めてまいりたいと思っております。以上です。
(注)「推薦」と発言しましたが、正しくは「推進」です。

 

全国障害者問題研究会 国連障害者権利委員会総括所見・教育関連の勧告事項について(談話)

https://www.nginet.or.jp/posts/news35.html

 国連障害者権利委員会が2022年9月9日に公表した「日本の報告に関する総括所見」(以下「総括所見」)については、国内でも既に多くの見解などが示されているが、そのうちの教育に関する内容については、総括所見の趣旨と内容を適切に受けとめ、この国に暮らす障害児者・家族の権利保障に生かしていく上で、より多くの英知を集めた検討が求められている。この談話は、私たちがこうした課題に総合的に応えていくための契機となることを願って公表するものである。

 他方で、このような積極的な内容にも関わらず、総括所見は教育に関する (a)項の内容において、障害児教育関係者に大きな衝撃を与えている。しかし、この(a)項については、その内容そのものの理解に正確を期する必要があるとともに、それが、今回の勧告において、教育に関する内容の冒頭に位置づけられた背景についても、適切な吟味の下に理解することが必要だと私は考える。

 先にも述べたとおり、日本の報道では、原文のsegregated special educationが、「分離された特別な教育」と訳されたことなどにより、特別支援学校や特別支援学級における教育全般について、その「存続」(perpetuation) そのものが懸念の対象とされ、それを「やめる」(cease)ための国家行動計画の策定等が求められたとする理解が基調であるが、それは果たして妥当だろうか。

 日本政府が提出した障害者権利委員会への報告では、「特別支援教育」はspecial needs educationと訳され、特別支援学校や特別支援学級についてもそれぞれ、special needs education schoolやspecial needs education classesなどの語が充てられている。しかし、これらの用語は、総括所見では1カ所(懸念事項の(a)後段)を除き採用されていない。このことは、一方では生硬な和製英語が避けられたということでもあろうが、もう一方では、日本の特別支援教育は、権利委員会の目から見ると、引き続きspecial education(特殊教育)の性格を脱しているようには見えない、という認識をも示しているように思われる。

 特別支援教育のキャッチコピー「障害の種別と程度に基づいて特別な場で行う特殊教育から、障害のある子ども一人ひとりのニーズを把握し、適切な指導と必要な支援を行う特別支援教育へ」にも関わらず、日本では相変わらず、障害に応じた特別な指導・支援は、特別な場(特別支援学校、特別支援学級、通級指導教室)以外には用意されず、しかもこれらの特別な場は、通常の教育からsegregate(隔離)されたものであることも少なくない。特別支援教育の成果を主張する政府報告にもかかわらず、こうした状況は改められないどころか、「特別な場」で学ぶ子どもの数は増え続けており、それは通常学校・通常学級が、障害のある子どもへの排除圧力を強め続けていることと深く結びついている。日本政府は、2007年からの特別支援教育の開始、2013年からの就学先決定手続きの変更などを持って、「インクルーシブ教育システム」の確立・推進を言うが、それは、特別な場で学ぶ子どもの数の著増状況が明白に示すように、実効性を持ち得ていない。

 権利委員会が、「特殊教育の永続化(perpetuation)」という表現を用いて懸念を示したのは、この国の特別支援教育のこうした状況に対してなのであり、それを転換するためにこそ、総括所見は、条約の締約主体であり、その実行に責任を持つ日本政府に対して、インクルーシブ教育への権利を認めることを求め、具体的な目標、時間枠および十分な予算措置を伴った国レベルの行動計画の策定を求めた、ということなのではないだろうか。

 一方、これに対する日本政府の反応は不誠実といわざるを得ないものである。永岡文部科学大臣は、記者会見での総括所見に関する質問に対して、「特別支援教育を中止することは考えていない」、「〔2022年4月の〕通知は…むしろインクルーシブを推進するもの」、「勧告で撤回が求められたのは大変遺憾」などと述べるに止まった(2022年9月13日永岡文科大臣記者会見録)。そこには、総括所見の指摘やその趣旨を真摯に受けとめて、特別支援教育の制度や施策を再検討する構えは感じられず、ましてや、通常学校・学級の教育、たとえば教員配置や学級規模をはじめとする教育条件、あるいは、「過度に競争的な制度を含むストレスフルな学校環境」(国連・子どもの権利委員会,2019)と批判される教育課程行政を含む教育環境等を改める姿勢は皆無であった。

 私たちは、このような政府答弁などをして、特別支援教育の存続などととらえ、胸をなで下ろすことは決してできない。私たちが、障害のある子どもたち、青年たち、仲間たちやその家族とともに求めてきたことは、特別支援教育=特殊教育の現状のままの存続などではなく、私たちの暮らすこの国の社会が、本当の意味で、権利条約第24条第1項の示す「教育についての障害者の権利を認め」る社会となることであり、その実現を確実なものとするために、日本政府および地方自治体等をして、「インクルーシブなあらゆる段階の教育制度および生涯学習」を確保することに真摯な努力を傾けるものとしていくことである。総括所見における教育に関する内容は、この国の現実に即して、こうした課題の実現をはかる取り組みの重要な拠り所となるものであり、この国における障害のある人たちの教育をめぐる状況をリアルに捉え、解決すべき諸問題を考えあっていくための指針として、重要な意義を持つものであると私は理解する。

 なお、総括所見を以上のようなものととらえ、その実現を図る努力の過程において、「隔離された特殊教育の廃止(cease)」という総括所見の文言が、人間の発達のすべての時期において、通常の教育環境とは相対的に区別された一切の特別な教育の場、特別な教育課程等の存在を否定するものであるのか、それは果たして、条約第24条第1項の示すインクルーシブ教育の三つの目的の実現に資するものであるのかどうかということについての、建設的で実りある対話が求められよう。この国には、障害のある子ども、青年の人間としてのゆたかな発達の実現を期してとりくまれてきた、特別支援学校、特別支援学級等における教育実践の豊富な蓄積があり、その発展を期す真摯な努力がある。それは歴史的にみれば、通常の教育環境とは相対的に区別された教育の場および教育課程等の存在を前提として成立し、発展してきたものである。障害を理由に、特別な教育での場を強要されることは、換言すれば通常の教育環境からの排除に他ならず、そうした事態は根絶されなければならない。しかし、そのための努力と並んで、現存する特別な教育の場と通常の教育環境との間の物理的な隔絶をなくしていくこと、あわせて、教育目標や教育課程、教育年限や卒業後の進路保障等々、特別な場における教育に残存する差別的なとりあつかいを一つ一つ確実になくしていくことと結びながら、これらの場によって生み出されてきた、障害のある子ども・青年のゆたかな発達を確保し、その源泉となる教育実践をさらに発展させ、それを基礎づける教育条件を整えていくこともまた、「隔離された特殊教育の廃止」を展望するもう一つの道ではないか。国連障害者の権利委員会総括所見の勧告に対しては、このような論点もまた提起される必要があるものと私は考える。総括所見を期に、この国における障害のある人たちの「教育についての権利」の総合的な実現にむけて、事実に基づいた旺盛な議論がなされることを願う。