勤務してた施設の話(3)

もうひとりの人のこと、っていうと、付け足しみたいで良くないですけど、やっぱり障害の程度が軽いとそうなりがちな気がします。手のかからない人、みたいな。このダンボールここに運んで、とか指示すると、ちゃんとその通りに動いてくれるんですよ。穏やかな性格で、作業所では問題を起こさない、役に立つ人って感じでした。でも、障害が軽い人は軽い人なりに、というか、軽いゆえに大変っていうのもあるのかもしれません。

彼の叔母だっていう人が、彼に関する情報をいろいろ伝えてくる人だったんです。その人によると、っていうか、施設長からの伝聞なんですけど、彼がちょっとした軽犯罪的なことをしたことがあるって聞きました。自動販売機でお釣りが出なかったふりをして、お店の人にそうやって言ってお金をもらっちゃったとか。で、何度も同じ手口をしてたら、お店の人が警察に通報して捕まったとか。
彼がそんなことする人だとは、僕には全然見えなくて、ちょっとイメージがつかなかったです。でも、職員の中には、そういうことには悪知恵が働くんだって、嫌な言い方をする人もいました。
別の職員の人と、このことについて話を交わしたのも憶えてます。「何かが欠けてるのかな」って言われたので、僕は「罪の意識、ですかね」って返して、っていう、それだけの会話だったんですけど、なんか記憶に残ってますね。
その職員の人はほわっとしてて、けっこう好きな感じな人でした。勤めてた法人で、好きだった職員は2人しかいないんですけど、そのうちの1人でした。でも「欠けてる」っていう言葉は、ちょっと引っかかっちゃって、そういうことを言う人だと思ってなかった分、余計に記憶に残ったのかもしれません。

ずっと全然、作業所では問題を起こす感じではなかったんです。でも、それ以外の場所で、事件を起こしちゃったんです。彼が施設に入って、2年目のことでした。
彼の家から自転車でちょっと行ったところにスーパーがあって、ある日そのスーパーに彼が行ったら、好きな感じの女の子を見つけたらしいんです。小学生の女の子だって言ってましたね。で、その女の子がスーパーから自転車に乗って行くのを、彼も自転車で後をつけて、その子の住んでるマンションだかアパートだかの自転車置き場まで行って、そこでその女の子に抱きついたんだそうです。
女の子からそのことを聞いた親が警察に通報して、何日か経って彼が捕まったとのことでした。
あとでわかったのは、以前からその子を見かけていて、何度か同じように後をつけてたということです。だから、計画的な犯行だったとか言われてましたね。あと、自分に抵抗できないような相手を狙った、卑劣な犯罪だとかってね。そんなことを言われてました。

そういう一連の話を聞いて、僕は「うーん」と思いました。もちろん許される事件ではないし、女の子はすごく怖かっただろうと思うし、トラウマも残るかもしれないし、って思いますよ。だから、彼は断罪されなくちゃいけないし、叱責されなければいけないし、反省しなくちゃいけないですよ。
でも、彼を見てると、うまく「反省する」ことができないように感じました。まさに「反省する」っていうところに障害があると思いました。だったら、ただ叱るだけじゃしょうがないんですよ。いかに、彼が「反省する」ところに持っていくかっていうのが、まさに障害者福祉に携わる人にとって、手腕が試されるところだと思うんですよ。
あと、やっぱり誰だって性欲はあるわけで、性欲をどう処理するかとか、いかに犯罪ではない方向に行くかっていう、それも彼にとって課題なわけですよ。
当然、それは施設職員にとっても課題なわけで、さらにいえば知的障害者福祉の課題でもありますよね。そういう意識を持たなくちゃいけないと思うんです。だから、彼を叱って、謝らせれば済むっていう話ではないんです。

でも、理事長や施設長にそんな意識は皆無だったと言っていいし、さらに、最悪な処理をしたんです。
彼の両親に、彼を入所施設に入れるようにと勧めて、実際に入所施設に入れさせたんです。それを聞いて、もはや呆れるほかなかったです。もう最悪だわって思いました。
今の時代、入所施設は減らしていこうっていうのは、障害者福祉のコンセンサスだと思うんですよ。共作連だってそう言ってるはずですよ。地域で問題を起こす人は入所施設に入れるべきっていう発想って、隔離収容そのものじゃないですか。時代錯誤も甚だしいですよね。
問題がある人を自分のところの施設から出て行ってもらうっていうのも、要は自分たちは面倒なことに関わりたくないってことでしょ。扱いやすい障害者のことは面倒を見るけど、っていうね。
曲がりなりにも障害者福祉施設を標榜してるところとして、あまりにもレベル低すぎって思いましたし、もう終わってるって思いました。

最近、営利企業が運営してる福祉施設はレベルが低いだとか、よく言われてますけど、じゃあ社会福祉法人がやってる福祉施設はレベルが高いんですか?って思ってます。社会福祉法人が運営してたって、自分が勤めていたような施設もあるし、結局ピンキリでしょって思ってます。
それと、これも最近よく言われてる、施設職員の給料が安いっていう問題も、自分が勤めてた施設の問題とは関係ないですね。だって、古株の理事長や施設長こそが、問題の根源なんですから。
古株の職員と新入りの職員で、給与規定が違ったんですよ。年功序列や勤続年数や役職で給料が違うとかじゃなくて、ある年以前に入った職員と、それ以降に入った職員とで、給与規定そのものが別なんです。施設長とか、ものすごく給料もらってましたよ。結局、給料が安かろうと高かろうと、ダメな法人がダメなんです。そこは履き替えないほうがいいんじゃないかなあって思います。