「意思決定支援」批判まとめ

Last Updated: 2018/05/31

★肩書は当時のもの。

桐原尚之(全国「精神病」者集団運営委員、立命館大学大学院先端総合学術研究科)
2012/03 「自分の意思決定に専門家が必要なのか」『全国「精神病」者集団ニュース』**号、**ページ
http://www.jngmdp.org/news/1313
※魚拓→ https://megalodon.jp/2018-0531-0247-54/www.jngmdp.org/news/1313

 意思/意志決定とは、本人が決めることによってしかなし得ず、そのサポートになんらかの専門性が付きまとうようなものではない。
 もとより、専門性とはある種の権威であり、クライアント以上に専門領域を知っているという前提がある。クライアント以上にクライアントの意思/意志決定に詳しい人などいようはずもない。それをいるとするならば、クライアントの意思/意志決定は、専門性の前に無力化されることになるだろう。これでは、クライアントの意思/意志決定を支えていないため本末転倒である。

 支援された意思/意志決定とは、「何かができない人」に対する専門的な支援といった医学モデルによるものではない。そもそも、完全に自己決定をしている人なんているのか。人は皆、人との関わり合いを通じて、場面にあった決定をしていく。それは、やむを得ない場面での決定など、必ずしも本意でないことも多いだろう。そんなものである。そんな当たり前の生活が、関わりごと阻害されているのが障害者の現状である。

2013/11(共著)「支援された意思決定をめぐって――日本国内法の現状と課題」『生存学研究センター報告』20号、309~318ページ
http://www.ritsumei-arsvi.org/publication/center_report/publication-center20/publication-306/
http://www.arsvi.com/2010/1211kn2.htm

 改正障害者自立支援法による相談支援の意思決定支援は、2013年4月1日施行となる。これを受けて障害者団体及び施設・職能団体の連合体である日本障害者協議会は、政策委員会の下に意思決定支援ワーキングチーム(委員長、石渡和実)を設置し、意思決定支援の在り方の提言に向けて議論をまとめている。
 このようにして、障害者が後見制度からの解放されるために示した支援された意思決定が、後見制度とともにソーシャルワークに依拠した相談支援の一環として変質していったわけである。

2014/06 「意思決定支援は支援の理念や方法ではない」『季刊福祉労働』143号、55~63ページ

 最近、社会福祉関係者の口から「意思決定支援」という単語を頻繁に聞くようになった。だが筆者には、彼らが意思決定支援を語感だけでわかった気になってしまっているように見える。そして正確に理解していないように思える。

 社会福祉関係者による三つ目の誤解は、意思決定支援が相談支援の類型として、あるいは、専門的支援の理念として社会福祉援助技術の枠内で捉えられている点である。
 その要因は、二〇一二年六月に障害者自立支援法改正(案)が可決し、相談支援の中に意思決定支援が位置づけられたことが大きい。…(中略)…
 このようにして意思決定支援は、法令によって相談支援の類型として、あるいは、専門的支援の理念として捉えられるに至ったのである。だが、意思決定とは、本人が決めることによってしかなし得ず、そのサポートになんらかの専門性が付きまとうようなものではない。必要なのは、あくまで生活上の介助である。

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佐藤進(埼玉県立大学名誉教授)※ワーキンググループ座長を務めていた
2015/03 障害福祉サービスの在り方等に関する論点整理のためのワーキンググループ 第6回
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000087855.html

 多分誰も分からないことを無理矢理分かったようにしてやることになることが一番おそろしいということで、そのリスクをどうやって回避するか。その結果として、意思決定支援というものがどういうものなのかということが深まっていくと思うのです。それにもかかわらず、意思決定支援ありきで議論すると、間違えると思うのです。

2015/09 社会保障審議会障害者部会 第69回
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000102401.html

 いろいろなことを余りガイドラインという形で決めすぎないことのほうが大事で、基本的に問われるのは、それぞれの障害のある方と向き合ったときに、その人の充実した生活をどう支援するかということを、お互いに模索し合うというような関係性の中で、初めて意思決定支援なるものがかろうじて成立する可能性はあると思いますが、実は文言にすると非常に浅薄なものになりかねないのではないか。

2015/10 社会保障審議会障害者部会 第73回
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000105304.html

 今更ちゃぶ台返しという議論をするつもりはないのですが、少なくともこういうものを運用するときに、こういう検証をしましたという話ではなくて、福祉の仕事に関わっている人間の共通認識として、どうやって自分たちの中にあるパターナリズムを制御するか、利用者側にそれをかぶせないか、当事者が持っている自己決定あるいは意思、そういうものに対してのおそれを我々が忘れないでいられるかと、これは手続の問題ではなくてもっと倫理的な問題だと思うのですが、そういうことを忘れさせるようなガイドラインとか、あるいは意思決定支援とはこういうものだとかというふうに、行政で余り旗を振らないでほしいと思っています。

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岡部耕典(早稲田大学文化構想学部教授、自立生活を営む知的障害の子がいる)
2015/12 「ズレてる支援! 『?』とか『!』にも意味がある」『たこの木通信』338号、18ページ
http://takonoki1987.up.seesaa.net/image/338E58FB7E382BAE383ACE381A6E3828BE694AFE68FB4EFBC81E3808CEFBC9FE3808DE381A8E3818BE3808CEFBC81E3808DE381ABE38282E6848FE591B3E3818CE38182E3828BEFBC88E5B2A1E983A8E88095E585B8EFBC89.pdf

 このところ特に気になっているのは「意思決定支援」なる新手である。もともとはsupported decision makingという横文字を翻訳した言葉だが、素直に訳せば「支援を受けた意思決定」、つまり想定されるその主語は決定する当事者、となるものをなぜかこれを支援する者が主語となる「意思決定支援」と意訳し、それを障害者基本法改正や障害者総合支援法の条文に使っている。障害者権利条約に従うと見せかけて、こうやってこっそりと支援の専門家主導を密輸入するやり口はかなりあざとい(誰が?)と思う。

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石黒丞(社会福祉士、基幹相談支援センターしゃきょう管理者)
2016/09 「成年後見活用講座を受講して」『愛知県社会福祉士会ニュース』210号、4ページ

 意思決定支援は、人が他人と接するなかで普通に配慮すべきこと、配慮していることであり、判断能力が衰えた人に対してのみ必要な技術ではないということです。健常者の世界では、普通にしていることが対象者が判断能力が衰えた人になると、途端に支援技術になってしまう。障害のある人もない人も一緒に暮らせるノーマルな世界には、意思決定支援という概念が必要ないのかもしれません。そんな日が来ることを願うばかりです。

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木口恵美子(東洋大学福祉社会開発研究センター研究支援者)
2017/02 「パーソナルアシスタンスと支援された意思決定――カナダ・マニトバ州と札幌市の取り組みを踏まえて」岡部耕典編『パーソナルアシスタンス――障害者権利条約時代の新・支援システムへ』生活書院、171~198ページ

 Supported Decision Making(サポーテッドデシジョンメイキング)は、言葉の通り訳せば「支援された意思決定」というように「意思決定」が主となるが、日本で「意思決定支援」という言葉が用いられ、定着してきたのは、障害者基本法や障害者総合支援法に「意思決定の支援」が盛り込まれたことが大きく影響していると考えられる。

 「意思決定支援ガイドライン」策定の目的は、障害者基本法や障害者総合支援法等に、意思決定支援が盛り込まれたことを受けて、「事業者等がサービスを提供する際に必要とされる意思決定支援の枠組みを示し」、「主として、障害者福祉サービス事業者等が利用者にサービスを提供する際に生じる、利用者への意思決定支援の枠組みを示す」こととされている。…(中略)…
 意思決定支援の仕組みとして、①意思決定支援責任者の氏名(配置)、②意思決定支援会議の開催、③意思決定支援計画の作成の3つの要素を上げ、…(中略)…また、意思決定支援責任者養成研修プログラム(案)も作成されている。

 一人の障害を持つ人から見れば、福祉事業所のサービスを利用する際に、相談支援専門員が作成する「サービス等利用計画」とサービス管理責任者が作成する「個別支援計画」、さらに意思決定支援責任者が作成する「意思決定支援計画」を持つことになるのか明らかではないが、権利条約で提案された「支援された意思決定」の方向に進んでいるとは言いがたいように思える。

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増田洋介(立命館大学生存学研究センター客員研究員)
2018/01 「知的障害者の日常生活に対する「意思決定支援」の制度化――議論の推移と推進派の主張」『人間文化研究』29号、123~153ページ
https://ncu.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=1989

 津久井やまゆり園において、46人の入所者が殺傷される事件が発生した。無事を得た入所者は他の施設等に仮入所したが、彼らの今後の居住場所について考える必要が生じてきた。2017年8月に神奈川県障害者施策審議会は、彼らの生活の場を決める際に意思決定支援ガイドラインを使用するよう提言した。この提言では、津久井やまゆり園の施設関係者などを中心として意思決定支援チームを構成し、生活の場の決定に携わることとされている。
 しかし…(中略)…意思決定支援の制度化は、施設関係者の側が自らの専門性に対する評価を高めたいとの意図から推進された側面がある。こうした意図が絡んで策定された意思決定支援ガイドラインを用い、入所者が入所していた施設の関係者が、入所者の今後の生活について決定に携わることはどれほど妥当なのだろうか。